オール電化や断捨離ミニマリスト、電子マネーにキャッシュレス……
世の中では常に新しい生活スタイルが考案され、世間の耳目を集める。
それらの無駄のないスマートな暮らしは、画期的で魅力的に思える。
けれど、新しい思い切った生活スタイルへと踏み切る前に、考えてほしいことがある。
その無駄のなさをスマートだと感じるのは、何も不自由していない平常時だけなのではないか、という可能性についてだ。
電化が首を絞める未来
昭和から平成を経て、かつてはどの家庭にもあったガスストーブや灯油ヒーターが、エアコンや電気ストーブに姿を変えた。
この電気化の流れに拍車をかけたのが、一時期急速に発達し注目を集めたオール電化の動きだ。
キッチンといえばガスコンロという常識を覆し、電気で動くIHコンロが調理の動力を担えるようになった。
ガスコンロと比べて掃除などの手間も小さく、ガス漏れなどの危険性も少ないという利点のある、台所の電化は画期的だった。
オール電化という言葉は、スマートな響きでもって世の中に浸透した。
しかし、このスマートさが仇となるのが、災害時だ。
地震や台風、大雨など、日本は自然災害が多い。
ひとたび災害に見舞われて電気がストップすれば、オール電化のキッチンは、ただのハリボテと化す。
ガスと電気両方を使っていれば、どちらかが止まっても、もう片方で急場をしのぐことができる。
大規模で長期的な災害時には、まさに命運を分ける選択ともいえるだろう。
被災時に実感する、電気ありきの現代社会
普段は何も考えずに使っているインフラや情報網が、電気に大きく依存しているということはなかなか意識しない。
近頃IoT=全てのシステムをインターネットでつなごうとする流れがとみに進んでいる。
何もかもがつながって手元の端末ひとつで完結できる世の中はとても便利。
しかし、この利便性はどれも、通常通り電気が行き渡っている前提の恩恵であることを私たちはつい忘れがちだ。
電気がとまってしまえば、充電が切れたスマホはただの重り。
どんなに便利なシステムであっても、ログインすることさえままならない。
スマートな支払い方法が続々と台頭してきている電子マネーも、動力源は電気。
非常時にいつも通り使えるとは限らないのだ。
複数の選択肢は、リスクを分散する
もちろん電子マネーが悪いと言っているわけではない。
支払いのスムーズさ、ポイント還元は普段の生活で確かなメリットだし、マクロで見ても経済に無駄がなくなるということは喜ばしい。
社会学者・古市憲寿氏は、最新の著書「誰の味方でもありません」の中の一節「そんなに現金を持ちたいですか」にて、災害時に備える意識が仇となって日本のキャッシュレス化が遅れていることを指摘していた。
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私が強調したいのは、電子マネーだけに偏って現金を完全に締め出すことは、非常時のリスクになるということである。
停電やインフラの破綻が起きたとき、最初に復旧するのはフェイストゥフェイス、手渡しの取り引きとなることは疑いようもない。
普段はキャッシュレスをメインにするとしても、現金という選択肢を残しておくことは、リスクを分散することなのだ。
平常時の無駄とは、災害時の余裕である
断捨離というワードも、最近では世を席巻している。
豊かな現代社会で、あふれた物に取り囲まれて逆に不自由な暮らしをしているのではないか、という問いかけは、現代をあくせく生きる私たちの窮屈さを解消する光に見えた。
余分な物を全て処分し、必要最小限の物だけを残して生きるミニマリストという人たちの存在は、スマートで垢抜けている印象を与える。
ただ、余分なものをなくすということは、言い方を変えれば、いつもギリギリの状態で回っていることでもある。
ほしいときに必要な分だけを手に入れる暮らしは、確かに無駄がない。
しかし、それは、いつでも必要なものが必要なだけ手に入るという前提での話だ。
物流が滞り、供給が止まってしまえば、たちまち破綻する可能性を秘めている。
そんなときに助けとなるのが、普段は邪魔としか思えない余剰物だ。 普段は飲まない水、普段は食べない食糧、普段は着ない衣類が、日の目を浴びるとき。
本当はそんな瞬間が来ない方が幸せなのは言うまでもない。
結局使わなくて無駄だったねと言われる物たちは、使われずとも役目を果たしている。
効率化の功罪
つまり、備蓄とは無駄なのだ、何もない時には。
有事の際の命綱までをも断捨離してしまわないよう、何もかもを処分してしまう前には一考をおすすめしたい。
災害時には、余剰物や第二、第三の選択肢が役立つ。
普段は使わない、もしものときのための余分な物を残しておく。
効率を考えれば一本化した方がよい、動力源、交通網もあえて複数保っておく。
それが本当の防災といえるのではないだろうか。
余談;非常時の労働力として存在する「サボるアリ」
これは余談だが、社会的な生物として知られるアリの中にも、サボる個体が常にいることをご存知だろうか。
一定の割合で、一見役に立たない労働力を保持しておくことで、全体の生存率を上げているらしい。
inusarukizi.hatenablog.com
効率化がいきすぎる我々ヒトは、どこかで立ち止まって、余裕を持つべきなのかもしれない。
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