ミッツケールちゃんの「みつける よのなか」blog

世の中のいろんなことを考察して深めたいミッツケールちゃんのブログ。本やテレビ、ニュースについて、あちこち寄り道しつつ綴ります。

考察★地球ドラマチック「ロンドン自然史博物館 巨大展示物入れ替え大作戦」

私たちヒトも確かに生きているはずなのに「生々しい」ものから目を背けてしまうのはなぜなんだろうか。整った世界に身を置いているから?
ファンタジー化する自然を身近に感じられる博物館展示とは何なのか、考えてしまう番組でした。内容と考察を書きます。

4/28(土)19:00~19:45 Eテレ

恐竜や、大自然、宇宙、遺跡など、海外のよりすぐりのドキュメンタリーを放送。
生命育む地球の、過去・現在・未来を分かりやすくひもときます。


目次

恐竜がクジラにバトンタッチした日

 地球の生命多様性を伝えてきた、ロンドン自然史博物館。その顔とも言えるメインホールの巨大展示物がリニューアルすると、2015年決まりました。
 入口すぐの大きな吹き抜けの空間で40年近く訪れる人を出迎えてきた草食恐竜ディプロドクス・愛称ディッピーが引退の日を迎え、世界最大の哺乳類シロナガスクジラ骨格標本がバトンを引き継ぐまでの物語です。

 巨大な展示物を入れ替えるという壮大な移転プロジェクトをめぐり、学芸員たちの技術的な挑戦、そして野生生物との共生を未来へつなごうとする思いが見えました。

原題;2017年イギリス制作「DIPPY AND THE WHALE」

博物館の旧シンボル・恐竜ディッピー

 1979年からメインホールで注目を集めてきた恐竜ディッピーは、石膏でできたレプリカで本物の化石ではありませんが、その迫力から来館者を絶えず魅了してきました。

サファリ社フィギュア 303629 WSディプロドクス

 ミッツ・ケールちゃんが自然史博物館でディッピーを実際に見たのはリニューアル発表の前年でした。入ってすぐ対面したディッピーを見上げ、これから見る展示への期待を高めましたが、まさかすぐに引退する運命だったとは。
 ついでに。自然史博物館は、焼けるような惑星へと飲み込まれていくエスカレーターといい、科学に親しむ人の裾野を広げようと演出を工夫しているなぁというイメージ。実際、ずらーっと並んだ剥製や標本の迫力はもちろん、地球誕生の流れに沿った展示や、地震体感コーナーなど、普段科学に触れることがない人にも興味を湧かせる展示があふれていました。また行きたい場所の1つ。

 博物館引退後のディッピーには、イギリス各地で展示する計画が立てられているそう。各パーツにはいつでも組み立てなおせるようナンバーがつけられ、長い時を過ごした自然史博物館に別れを告げました。

骨格標本で表現する野生の姿

 ディッピーから”博物館の顔”を引き継ぐのは、シロナガスクジラ骨格標本。かつては生きたクジラとして大海原を自在に泳ぎ、海岸に打ち上げられ命尽きてからは博物館で保管されてきた本物の骨です。
 シロナガスクジラは、絶滅が危惧されている地球史上最大の哺乳類。訪れる人を持ち前のスケール感で圧倒するとともに、人間が自然とどう関わるか考えさせる展示として打ってつけ。メインホールの広い空間を活かして上から吊り下げ、来館者を見下ろす構想が練られました。

Collcta シロナガスクジラ

 とは言え、水平に吊り下げるだけでは従来の置き物と変わらず新鮮味がない。クジラの野生の姿を標本で表せるポーズとは?
 クジラ展示を発案した海洋哺乳類担当の学芸員は、海の中でのクジラの自然な姿に展示のインスピレーションを求め、アメリカ・カリフォルニアへ。息継ぎのため15分に一度海面に現れたクジラが再び海中へ潜り、巨大な顎を90度以上開いてオキアミの大群を飲み込んで食糧を得る動きに雄大なスケールを感じ取ります。
 クジラの骨格標本が博物館メインホールの広い空間を泳ぎ、博物館入口から入ってくる人に向かって口を大きく開けたままダイブしていくダイナミックなポーズにすることを決めました。

 生きる象徴は、やはり、食べる姿ですね。
 多くの一般人にとって生きたクジラを日常生活で目にする機会は滅多になく、クジラと言えば、かわいらしくデフォルメされたキャラクターのクジラのイメージが浮かびます。

リブハート(Livheart) 抱き枕 カナロア Lサイズ 48768-63

 愛着が湧いて無関心よりはよいのかもしれませんが、どんどんファンタジーして現実から離れていっていることにミッツ・ケールちゃんは少し恐れを感じます。決して生易しくないたくましい”生”を知ろうとする気持ちは忘れないようにしたいものです。

技術を結集した挑戦

 前例のない巨大なクジラの骨格を展示するという試み。まずは長年の保管で劣化が進む骨の状態を細かく調べた上で、パーツごとに分解して運搬です。4カ月かけて全体が220個に分解されました。

 さらに、躍動感あふれる捕食を表現する上で重要な、背骨や尾ひれを大きくカーブさせるために、最新の工学技術が必要となりました。
 生きている状態であれば脂肪や筋肉が骨と骨を結びつけ、水中なら浮力の助けも得られる一方、骨格標本としての展示では金属の補強材だけが頼り。映画「ジュラシックパーク」で恐竜制作に関わったカナダの技術チームも助っ人に呼び、全ての骨を3Dスキャンしてコンピュータで設計。背骨にパイプを通し、つなぎ目が見えないように工夫が凝らされます。

 その後の搬入と組み立ても一苦労。分解したとはいえ大きいパーツを入口から傷つけず入れ、安全に吊り下げるため細心の注意が払われますが、中でも頭蓋骨は大きさ、重さ、構造の複雑さが別格。各分野のエキスパートが知恵を絞り、完成にこぎつけました。

 多くの人が集まる展示場でも危険のないよう、貴重な試料を傷つけることのないよう、そして動きを止めた標本で”生”の臨場感が伝わるよう。展示っていろんな要素が絡み合う作業だったんですね。

自然史の先端は、現在進行形

 無事メインホールに放たれたシロナガスクジラの標本。もとは1891年、アイルランド南東部の砂浜に打ち上げられたクジラでした。
 当時はまだクジラの生息数が多かったため、助けて沖に戻すという保護的な観点はなく、大量の油が取れる極めて価値の高い動物という考え。競売にかけられてその身は燃料となり、骨格は博物館に当初の2倍以上の値段で売却されて現在に至ります。

 今では、かつて約36万頭生息していたシロナガスクジラは1万2000頭にまで激減。今回のプロジェクトに携わった博物館の学芸員らは、新しい博物館の顔となったシロナガスクジラの標本に「HOPE」と名付け、絶滅から救うため何をすべきかを考えるきっかけになってほしいと未来に向けたメッセージを込めたそうです。

IUCN レッドリスト 世界の絶滅危惧生物図鑑

IUCN レッドリスト 世界の絶滅危惧生物図鑑

 すでに絶滅してしまった恐竜を継いで、今まさに絶滅の危機に瀕している地球最大の哺乳類が抜擢されたところに、ミッツ・ケールちゃんが感じたのは、「自然史」というものが単なる歴史ではなく、現在進行形で先端に自分たちが立たされている場であるということ。危機感が急速に増している現代への問いかけのように思えました。

 ミッツ・ケールちゃん自身、きれいごとを言える人間じゃありません。クジラを近くで見たこともないくせに、人生で何度か口にしたクジラの肉はおいしかった。「燃料のために後先考えず乱獲しなければよかったのに」と自分とは無関係に思える相手を責める気持ちになるも、今の便利な生活は自然からエネルギーを抽出して発展した先に存在しているものだ!なんてハッと気づく。かと言って原始的な生活になんて戻れない。

 4年前に訪れたロンドン自然史博物館に再訪したいと冒頭で述べたけれど、メインホールに入ってシロナガスクジラの「HOPE」にダイブされたとき、どんな顔して受け止めたらいいのだろう。



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