サボって有事に備えるアリ、危険な任務で犠牲になるアリ、産み続けるアリ。
徹底した分業システムは確かに合理的だけど、間に感情が挟まって時には非合理な方向へ向かうのがヒトの強みなのかも。
Eテレでアリについて学び、ヒトについて考えました。内容とあわせて感想・考察を紹介します。
4/25(水)22:00~22:45 Eテレ
日常で何気なく感じるフシギを「ヘウレーカ(わかった)!」と解き明かす
浮力について解き明かしたアルキメデスにちなんだ番組で、自然科学が中心
目次
アリは先輩
世界で最も個体数が多いアリ。実はヒトよりも複雑な社会を持っているそうです。
ヒト(ホモサピエンス)が20万年前から繁栄してきたのに対し、
アリの社会が完成したのはなんと5000万年前!地球上で適応してきた長さで言えば、私たちの圧倒的な先輩にあたるアリの世界。どんな暮らしをしているのかに迫ります。
- 作者: 坂本洋典,東正剛,村上貴弘
- 出版社/メーカー: 東海大学出版部
- 発売日: 2015/09/17
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
女性ばかりの大奥みたいなアリ界
今回は、日本列島に生息するアリの中で最大級のクロオオアリに着目。
その中でもひときわ大きいのが、体長約17mmもある女王アリです。産卵に特化したアリで、それ以外の仕事はしません。逆に女王アリ以外は出産をしないので、みんなの代表のお母さん役ですね。
女王アリが無事出産を遂げられるよう、彼女身の回りの世話や、生まれた幼虫の子育てをするのは、周りに控えた働きアリたち。なんと、全部メスとのこと。
さらに、巣の外へ出てエサをとってくるアリたちもいます。が、これも全てメス。危険な外の世界に出ることはリスクも伴うので、全体の戦略として、老齢のアリが出ていくそうです。私たちが普段目にしているアリは、おばあさんアリばっかりということになります。
ではオスはどこにいるのかと言えば、交尾の時期にしか生まれてこなくて、しかも外に出て2、3日で死んでしまうほど短命なのだとか。このときの交尾で取り込んだ精子を、女王アリは体内で保管し、10~20年もの間、毎日のように産卵し続ける一生を送ります。
圧倒的に女性中心の世界だったんですね。男性は世代交代のための一瞬だけ必要とされ、あとは女王を中心にメスたちが仕える大奥のような日常。いや、巣の中が中心舞台ですから、大”奥”というのも変でしょうか。
見習うべき?合理的な分業システム
アリの分業システムは、決められた役割を持って生まれてくるところからスタートします。
精子の運び屋であるオスアリが短命なのに対し、産卵役の女王アリの寿命は10~20年。それ以外のメス・巣の維持を担う働きアリは1年ほど生きます。生まれた時点で決まっている寿命に向かって、それぞれの任務を全うするのです。
さらに、全体の労働力を考えて、老い先短い個体が危険な仕事を引き受けるということ。年齢によって労働内容をかえることで集団の生存率を高めています。
私たちの社会も、それぞれが専門や職業を持つことで助け合う、という点ではアリと同じ分業システムが成り立っています。一人一人が住まいを立てて野菜を栽培・家畜を育てるなど自給自足することと比べれば、建築家や農業……と分担した方がずっと合理的。仕事の価値をお金に換算することで、社会全体で助け合っています。
ただ、人間は、自分がどんな役割を請け負うか、ある程度自分自身で選択することができます。それだけに、向いていない仕事を続けて時間を無駄にしたり、他にもっと良い仕事があるのではと思い悩んだり、社会全体で見ればアリほどは合理的とは言えないかもしれません。
アリは、「こんな役割で終わるのは嫌だ、自由に生きたい」なんて考えることなく、遺伝子に刻まれたシステムを淡々と動かしていきます。無駄が生じるというのは、知能が発達して個体が意識を持つヒトならではの弱みですね。
そんなことを考えていたら、とかく合理的で便利な方向へと進歩し続ける世の中はこれでいいのだろうか、という気がしてきました。無駄を省き、合理性を追求するのは、もしかしたら人間らしさをなくす向きなのかも。結果だけじゃなく、過程に重きを置けるのは知能の為せる業という感じがします。
「無駄だし意味なんてないけど、なんかいいよね」なんていう、余白を大切にするおおらかさが、人間の文化的発展には欠かせないように思えました。
超個体
「どうせもうすぐ死ぬんだから危険な仕事は老人に任せよう」
個人に意識があるヒトからすれば、冷酷にも思えるアリの仕組み。徹底して集団全体の生存を優先するために生じる論理ですよね。
この仕組みを理解する上では、一個体に固執せず集団をひっくるめて一つの生き物と捉える「超個体」という生物学の考え方が役立ちます。
心臓や胃、肝臓など種々の臓器が集まって1人の人間が形成されているのと同様に、アリ1匹は部品に過ぎないということです。
種の保存という1点を目指し、共同の社会生活を送る上では、1匹のアリが生き延びるか否かというのは大した問題じゃないということですね。
比べて、ヒトはアリのように利他的な行動はできません。1人1人が生き延びたい、得したい、幸せになりたい、といった利己的な意思を抱えているからです。
より良い社会を目指すのも、自分に巡り巡ってくるから、と言ってしまえば身もふたもありませんが、全体を俯瞰したり先のことを見据えて協力し合えるのも、知能の高いヒトだからこそ。
個人が全体のために働くという点ではアリもヒトも大差なさそうですが、その動機付けとして本能がくるのか知恵がくるのか、という点に生物としての違いを見た気がしました。
- 発売日: 2016/01/06
- メディア: Prime Video
- この商品を含むブログを見る
遺伝の平穏を保つカギは
アリの生殖で驚いたのは、普段はオスがおらず、必要になときにだけ生まれるということ。メスとオスを状況によって産み分けられるということ?とびっくりしましたが、受精卵からメス、未受精卵からオスが生まれるという性別決定の仕組みになっているそう。
精子が枯渇すれば受精できず、オスが生まれてくるということですよね。うまくできていますね~。
さらに、未授精だとオスという遺伝子のメカニズムは、種の保存を考えたダーウィンすら挫折させる画期的な仕組みでした。
オスが未授精=遺伝の形質を1種類しかもたないことにより、生まれる娘アリたちには必ずオス由来の共通の形質が引き継がれます。よって、遺伝子の近さを表す平均血縁度は、親子間よりも姉妹間の方が高くなることになります。
つまり、我が子を出産するよりも母親に妹を産んでもらった方が、自分により近い遺伝子が次世代に受け継がれるということ。
働きアリは女王アリのために身を粉にしているように見えて、実際は自分に近い遺伝子を残すために協力しているのでした。
協力して次の世代へ何を残していくかという観点。ヒトの場合は、生物学的な遺伝子だけとは限りません。アリのように、遺伝子レベルで他人の子どもに自分を投影するのは、ヒトの遺伝の仕組み上、不可能です。
ただ、番組でも言っていましたがヒトの場合、次世代へ受け継がれる情報は、遺伝情報だけに限りません。書いた文章や成し遂げた研究は、先人の知恵として残るでしょう。有益な情報や思想などは親以外からも影響を受けます。
「子どもは社会で育てるもの」という考え方をよく耳にします。生物というハード面だけでなく、意識などソフト面での世代交代をできるからこそ、人間界では、メスが出産・オスが精子の運び屋の枠を超えた社会構造ができたのでしょうね。
地域の教育力を育てる:子どもとおとなが学びあう生涯学習社会に向けて
- 作者: 柴田彩千子
- 出版社/メーカー: 学文社
- 発売日: 2014/10/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
サボる役割を作ることで余剰の労働力を温存
さて、いつも忙しそうな働き者に見えるアリですが、よく働くアリ:普通のアリ:働かないアリ=2:6:2と決まった比率に分かれるという話はよく聞きますね。よく働くアリだけを集めても、また一部のアリが働かなくなって同じ比率になるそう。
個人的にサボり癖のアリが存在するわけではなく、必ず全体の2割はサボるという戦略のようです。いざというときのために、集団全体で見て体力を温存しておく。予備軍的な役割で全体の生存率を上げているという意味では、一種の分業システムともいえます。
このサボる比率は、作る巣の規模によって変わるそうで、
・ 大きな巣を作るために95%が働き続ける種類
・ 小さな巣しか作らないので、10%しか働かない種類
など、種類によってさまざまだそう。 余裕を持とうと思えば、わざと小さい巣にすることも考えられます。
先輩といっても、アリを真似るのは無理がある
これを人間に置き換えれば、みんなが必死に四六時中働く社会へシフトしていくのか、みんなでサボってそこそこの社会発展で終わるのか、という話になります。
平時から100%出し切っちゃうと、いざというときに150%ぐらい働かなければいけなくなりますよね。
かといって一部を休ませる戦略にすればいいのかと言えば、アリと違ってヒトは感情がある分、そんな簡単な話ではありません。働く上でも精神が健康でなければ破綻を来します。普段社会に出て働くことに慣れていないのに、有事の際にだけてきぱき動くなんて難しいでしょう。交代で休みながらみんなが働くという現況に落ち着きますね。
さらに、ヒトは体力や精神力、能力といった個体差も大きくあります。同じ時間・同じ仕事量をこなしても、限界ギリギリの人と、まだまだ温存できる人に分かれてきますよね。
ミッツ・ケールちゃんとしては、1日8時間週休2日制を誰にでも当てはめるのに無理がある気がしています(もちろんそれ以上働く人やパートタイムの人もいるけれど、世間一般の正社員といえばだいたい一律なのが常識ですよね)。給与に差をつけるなどして、個人個人がいざというときにも対応できる程度に働けるオーダーメイドの働き方ができればいいなと思っています。
私たちはアリではないのだから、社会全体の総量ではなく、個人のキャパシティで労働を考えるべきなのではないでしょうか。
- 作者: 村山昇,若田紗希
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2018/03/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
★アリの第二弾(ヘウレーカ#8)が放送されました。その記事はこちら↓
---広告---