男女という性別の仕組みは、生物学的に見れば曖昧なものなのかもしれませんね。 男だから女だからという意識は、生物としての本能が起こすものなのか、社会に生きる上での理性が起こすものなのか。 番組を見て、考えたことを内容と合わせて書きます。
6/13(水)22:00~22:45 Eテレ
日常で何気なく感じるフシギを「ヘウレーカ(わかった)!」と解き明かす
浮力について解き明かしたアルキメデスにちなんだ番組で、自然科学が中心
目次
泣かないの!男の子でしょ!
男だから、男らしく、という言葉は、昨今のセクハラに敏感な風潮の中、減ってきたけれど。
依然として、男性に求めるもの女性に求めるものって無意識にあるように思います。
オスとメスってそもそも何なのか。生き物の性がどう決まるのかを研究している生物学教授が、今回の案内役です。
- 作者: 黒岩麻里
- 出版社/メーカー: 学研メディカル秀潤社
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胎児の頃に決まる、太く短くVS細く長く
動物園を見渡してみると、オスだけが外見上の特徴を持つ動物がいっぱい。
ライオンのたてがみや、マンドリルの鮮やかな色の顔、シカの角、クジャクの羽の豪華な模様。
このように、性別によって個体の形に違いが出ることを性的二型といいます。
メスに選ばれるために進化したもので、そこには男性ホルモンが関わっています。
ヒトの場合は他の動物ほど顕著ではないものの、ひげが生えたり声が低くなったり、肩幅や筋肉などプロポーションに、その影響が出てきます。
大人になるにつれ体にあらわれる変化ですが、実は胎児の時点で分泌が始まり、この頃の分泌量が大人になってからの能力や健康に関わってくるのだとか。
近年、薬指の長さが人差し指に比べて長いほど、胎児の頃の分泌量が高いということがわかってきました。
薬指が相対的に長いほど、サッカー選手として優秀だとか、金融トレーダーなら平均所得が高いといった報告があるそうです。
一方、男性ホルモンが多く分泌されるほど、寿命が短くなるのではないかという指摘も出てきています。
細く長く生きるか、太く短く生きるか、の違いだと考えれば、ある意味平等にも思えますね。 でも、男らしい人に女性が惹かれるのだとすれば、短い寿命の男性を選んでいるということになりそう。 その瞬間の雄々しさだけで、生涯添い遂げることを考えれば不利とも言えます。
そういえば、以前のアリ回で、オスは精子を運んでくる役割だけのために生まれてきて、交尾を終えたら命が尽きてしまうというシステムを見ました。
inusarukizi.hatenablog.com
ヒトも生物学的に考えれば、生殖活動の一時期に強いDNAを引き継ぐことだけが、本能的なオスの役割なのかもしれませんね。
本能を超えた理性を兼ね備えるようになって、個人を尊重し、家族で生活することに幸せを見出す人が増えた今となっては、ひどい仕組みだけれども。
性のデフォルトは女性型
男か女かを決める源を探るべく、話は細胞レベルへ。
ヒトの性別に関わってくるのは、46本ある染色体のうち最後の2本の性染色体XとYです。
両親から1本ずつ受け継いだ結果がXXであれば女性、XYであれば男性ですね。父親からしかもらえないY染色体が男性を作る鍵です。
Y染色体の中に性決定遺伝子があり、これはヒトだけでなく哺乳類全てにおいて共通の遺伝子で、オスしか持っていないもの。
つまり、この遺伝子がなければ女性になってしまうということで、性のデフォルトは女性型なのではないかと広く言われているそうです。
たしかに、生物学的に考えれば、妊娠して出産するメスが基本というのも頷けるような気もします。
これまたアリの回で、オスは精子が必要なときのみ生まれてくるシステムを見ました。
ヒトの場合は、女王アリのように一度の交尾で得た精子を保ったまま生涯産み続けるという体のつくりにはなっていないので、オスは常に必要。
そのために潜性遺伝(旧・劣性遺伝)という形で、Y染色体が組み込まれているのでしょうね。
このY染色体、退化が進んでいて、いつか消えてなくなるかもしれないという局面に立っているそうです。
潜性遺伝のため常に1本しかないY染色体は、傷や突然変異が起きても、X染色体のように組換えで修復することができません。
有害な部分を取り除くばかりでどんどん欠失していき、既にX染色体よりもかなり短くなってしまっています。
3億年かけて欠失してきたY染色体は、残り500~600万年ほどで消えてしまうと考えられているそうです。
オスがいなくなれば、当然メスも子孫を残せなくなります。ヒトだけでなく哺乳類全てが地球上から絶滅してしまうという危機が控えているなんて。
(退化しつつあるY染色体を前にどうなっていくのか、という話は著書に詳しく書かれているようです↓)
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生物によって異なる性の仕組み
ヒトをはじめとした哺乳類の場合、Y染色体にある性決定遺伝子が、男女を分ける鍵でした。 でも、広い生物界、哺乳類とは違う仕組みで性決定する生物がたくさんいるようです。
集団で生活するカクレクマノミは、集団の中で最も大きい個体がメス、2番目に大きい個体がオス、3番目以下は性的に成熟しない状態。
メスが死んだり集団からいなくなった場合、今までオスだった個体がメスに性転換するそうです。
多くの個体がメスでもオスでもなくて、体格的に最も恵まれた個体が産卵という重要な役割を請け負うというのは理にかなっているように思えます。
ウミガメやワニは、孵化した場所の温度によってメスが生まれたりオスが生まれたり、性別が変わります。
ミズオオトカゲはオスがいない状態に置かれると、単為生殖でオスが生まれるといいます。未受精卵からオスが生まれるアリの仕組みに似たものを感じました。
必要に応じて、オスとメスを産み分けられるというのは、それぞれの生物が生き延びて次の世代へ遺伝子を引き継ぐための戦略なのでしょう。
男女が生まれながらに二分されていると思われていたヒトの性についても、様々な例外が出てきています。
高齢になると、一部の細胞からY染色体がなくなっていくという研究もあるそうで、細胞レベルでは男性が女性に変わっていくこともありえるらしい。
年齢や環境などの条件で性はゆらぐようです。
周りの環境に適した性質が残され進化していくのが生物の生物たるゆえん。世の中の形に合わせて、当たり前だと思っていたステータスも変化していくものなのかもしれませんね。
二元的に捉えられてきた性別を、今ではグラデーションで考えて研究しているという教授の話から、多様性が認められつつある現代の時勢においても、さらに大きな一石を投じる可能性を感じました。
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