ミッツケールちゃんの「みつける よのなか」blog

世の中のいろんなことを考察して深めたいミッツケールちゃんのブログ。本やテレビ、ニュースについて、あちこち寄り道しつつ綴ります。

既得権益など守る必要ない、と言うけれど――無駄が一掃されない理由

はんこ文化は過去の遺物?

 はんこ文化の是非が取り沙汰されている。
内閣改造によって生まれた高齢のIT担当大臣が、はんこ文化とデジタルを両立したいと発言したことが発端だ。

 捺印の物理的な手間、ネット時代には非効率であること、そもそもの信頼性……など、議論は様々。
柘 つげ 個人印鑑 もみ皮ケース付き 10.5mm/12mm/13.5mm/15mmから選択 実印/銀行印/認印 ハンコ はんこ [kmkhanko]

 今回は はんこが槍玉に挙がっているが、他にも、新聞、出版、テレビ……社会の形態が変わることで立ち位置が変わった過去の中心的存在に「本当に今も必要なのか?」という疑惑がかけられるのは今に始まったことではない。

 時代遅れなアイテムや文化は今すぐ撲滅すべし。業界の反対で切り捨てられないに違いない。横行する既得権益が悪だ。既得権益など守る必要ない――。と論は過激さを増していく。

 しかし、そんな中で置いてけぼりになっていることがある。
自分たちに、いつかその論が跳ね返ってくる可能性についてだ。

効率化と既得権益は表裏一体

 既得権益に阿るな――その主張をする人たちは自らが別の既得権益の恩恵にあずかっていることを自覚していない。

 自分の仕事、はたまた人生が、何も無駄なことはなく、社会に対して確実に有益だという自信があるのだろうか。
 もしくは自分のことは棚に上げたきり忘却の彼方なのだろうか。だとしたら特権意識も甚だしい。

 社会を効率化しようとするなら、そりゃあ無駄を一掃すればよいのだ。
でもそれをするためには、無数の血の通った人が憂き目を見ることになる。

 このアイテム/文化は無駄。世の発展には必要ないから破棄してしまえ。関係する人たちが路頭に迷う?知ったことか。そんな泥船に乗りかかったそいつらが悪い――。

 この考えは自己責任論の下で正論に思えるが、期せずして自分に跳ね返ってくるリスクを考えれば、とても安易に発言できるものではない。

人は断捨離できない

 新しい技術が日々生まれている分、新しく”無駄”に認定される人たちも日々生まれることになる。
 そのたびに断捨離してしまえば効率的だが、自分の肩を叩かれるのも時間の問題だ。

 運良く自分の属する業界がその魔の手を回避したとしても、そのような社会正義が幅を利かす状況ではたちまち社会不安が引き起こされる。
 身に覚えもなく業界の都合で、急に解雇されたり、内定取り消しになったりする事態が身の回りで頻発したら? とても従来の生活を保てないことは疑いようもない。

 もっと言えば、「この人たちはただ生きるだけで何も生み出さず、大した価値もない」。そう判断されたときに、人間がいともたやすく処分される世の中であってよいのか。

 実際には、今はそんな世の中ではない。この国は法治国家で、福祉制度もある程度整っている。
”そんな世の中”じゃないからこそ大目に見てもらえて、日常の安寧を得ている部分もあるはずなのだ。
そこから目を背けて攻撃に回るのは、ただ幼稚なだけだ。

 既得権益という言葉は大層だけれど、もっと分解して考えれば、人権に近いものだと思う。

 何も生み出さなくとも生きているだけで尊いというのが、人権の根本だ。
既得権益が倒れないことによって生き永らえている人たちにも、尊重される権利がある。

 この前提を覆すことにつながるから、既得権益は倒せないのだ。みんな自分たちのためなのだ。

無駄が未来を救うかもしれない

 過剰に既得権益の肩を持つ気はないし、伝統の名の下に好き放題している文化は身の程を弁え、整理されるものは整理されるべきとも考えている。

 それでも世の中の求める方向が短絡的になりすぎていること、そして、ネットの普及でそれが可視化されるようになったことには、著しく危機感を覚える。

 そもそも、目先を見れば役に立たないことを全て排除してしまえば、おそらく科学はここまで進歩しなかった。
即効性のないもの、即戦力にならないものは全てだとするなら、人類の発展の先細りは目に見えている。

 各人の思想が寄り集まって世論を形成する。
失うものはないと勘違いして、言質を取られることを恐れもしない私たちだが、その未来を見据えるのがおそろしい。

 自分が丸腰ということも忘れて、自らが放った毒ガスに時間差でやられるような間抜けな末路を辿ることになりかねない。

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