ミッツケールちゃんの「みつける よのなか」blog

世の中のいろんなことを考察して深めたいミッツケールちゃんのブログ。本やテレビ、ニュースについて、あちこち寄り道しつつ綴ります。

”親になる”以外にも幸せはある―書評★いるいないみらい(窪美澄)

 いろいろな生き方が認められつつある現代。
結婚して子どもを産んで育てて一人前、という価値観から離れた人生を選ぶ人も増えてきている。

 一方で、
自由に生きたいのに、外野から従来の価値観を押し付けられて苦しんでいる人、
自分自身は昔ながらの生き方をしたいのに諸事情あって選択できない人、
はたまた、従来の価値観を悪いとは思わないけれど、今は別のことに熱中したい人、
など、悩みの幅も広がってきた。

 人がいれば、人の数だけある人生の形。
模範解答などはないけれど、自分の未来を考える上で、いろんな生き方を見てみたいと思うもの。

 そんなときにこの短編集を手に取ってみてはどうだろうか。

いるいないみらい

いるいないみらい

今はいない子ども、それと私

 タイトルの「いる/いない」が指すのは、他でもない。子どもという存在だ。

 子どもがいる未来、子どもがいない未来……。人生の選択に直面した人たちの、切なくもあたたかな物語が5篇、収録されている。


 子どもがいなくても十分に幸せ。でも、愛する夫は子どもがほしそうだ。

 不妊治療に一喜一憂する妻を尻目に、どうも自分は乗り切れない。

 子どもなんて大嫌い。育ててくれた両親を大切にする今の生活を守りたい。

 愛する我が子が生まれて幾ばくもせず先立った。どう生きていくのか。

 捨てられた子だった私は、子を持つことに積極的になれない。血のつながりって重要?



 子どもがいてもいなくても、それぞれみな毎日を懸命に生きている。
そんな多様な生き方が垣間見える作品だ。

直木賞候補作家が描く、人生の形

 著者の窪美澄は、直近の直木賞にもノミネートされた、今注目の作家。
(↓直木賞候補となった「トリニティ」)

トリニティ

トリニティ

 鋭い切り口で、現代を強く生きる人たちの暮らしを描いてきた。

 短編集である本作「いるいないみらい」は、著者の世界の捉え方はそのままに、他作品と比べて過激な性描写もなく読みやすい1冊に仕上がっている。

持たない痛み

 人間、既に持っているものには無頓着であることが多い。

 本作のタイトルが示す、子どもがいる未来/いない未来という葛藤を反芻するのは、“いない未来”を生きようとする人たちがほとんどだろう。

 彼ら彼女らは、世代交代で維持される人間社会の中では当然少数派。 “いる”現実を生きる人たちから発される悪気のない棘に刺されながらも、何も抱えていないような顔をして日々をやり過ごしている……。

 そんな日常に潜む機微が滲み出ているのは、著者の繊細な筆致ゆえ。

 正解のない主題だけに簡単に答えの出る話ではないのだが、5つの物語から何かを掴み、何かを考えるきっかけが得られるかもしれない。

 多様な生き方を認める方へと向かう現代にこそ、必要とされるべき作品。多くの人に読んでほしい。

いるいないみらい

いるいないみらい



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