ミッツケールちゃんの「みつける よのなか」blog

世の中のいろんなことを考察して深めたいミッツケールちゃんのブログ。本やテレビ、ニュースについて、あちこち寄り道しつつ綴ります。

書評

社会的な正しい愛に沿えぬ女たちは―書評★犬のかたちをしているもの(高瀬隼子)

愛のさきに性があって、性のさきに子どもがあって。正しい愛って、確かに存在する。一本道の終着点「子どもの形をした圧力」の前では、犬を慈しむような愛は認められない。なのに子どもの形の中身は、まだ見ぬ命そっちのけで今いる人間の身勝手な都合なのだ…

宇宙を翔ける一匹狼がABC予想を解く―書評★宇宙と宇宙をつなぐ数学(加藤文元)

国際ならぬ宇宙際という概念は面白い。数学的な操作を行う舞台一式のことを「宇宙」と表すところには、望月教授の数学者としての生き様が表れているように感じる。一つのパラダイム内で行き詰まったときに、その枠を超えられるかということ、それには専門性…

何者にでもなれる種が、人間の中にはある―書評★某(川上弘美)

ファンタジーを介して繰り広げられる、人間の外と内の繋がりの模索という普遍的な問い。「自分らしさ」だと思えるもの、「君ってそんなところあるんだね」と指摘されたもの、それらに沿って我々は生きる。でもそれは作為的な営み。環境との組み合わせでどの…

どれだけ分岐しても私は先輩のそばに―書評★不純文学(斜線堂有紀)

人と人とが一緒にそこにいることの意味が、人生や愛の哲学が、閃光のように頭によぎっては果てていく。ページをめくるたび突飛な設定に驚くけれど、奇跡よりも得難い、運命に配された彼らの愛そのものが、いずれの先にも見える。

グローバル化という暴力の源泉は私たちの中に―書評★熱源(川越宗一)

読みづらいアイヌの名前が漢字表記になると読みやすくなる。無意識に感じたこのことは、「高度な文明」がそれ以外を従わせる暴力の端緒そのものだ。私たちは強者であることを普段は意識しない。全体の効率を考えれば、皆が一つの標準に沿う方が無駄がない。…

自然界の摂理から見る「虐待する親」の正体――書評★生き物の死にざま

親の満たされなさが「しつけ」という大義名分で、たまたまそこにいる子どもにぶつけられるのが虐待。生き物の死にざまに習って、私たち人間にできることとは?

あの人は、本当に私と同じ人間なのか?―書評★地球星人(村田沙耶香)

「役割」はある人を追い詰め、ある人を救う。最大幸福を求め発達した社会で、大多数の人は常識を受け入れ、やがて他者を裁きはじめる。少数派の視点で描かれる世の中のかたちが生々しい。

「無償の愛」は相手という人間を無視した搾取―書評★森があふれる(彩瀬まる)

夫婦とはもっとも近い存在でありながら、他人なのだ。近くにいるから見えないこともある。世の中にあふれている夫婦という形。その奥には何があるのか。

水墨画でひも解く「美しさとは」★書評「線は、僕を描く」砥上裕將

水墨画と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。地味、お年寄りの趣味、どれも同じに見える……そんなイメージが払拭される秀作が話題だ。黒一色で描き上げられた一幅の水墨画に、何が押し込められているのか。この世の美しさというものに、描き手の精神性が…

人間としての”親”を認められる世の中に「そして、バトンは渡された」書評

家族ってなんだろう。 血がつながっているということ?それだけで楽しいときも苦しいときもやっていけるもの? 身近な存在だけに、歪な形を見ないふりしてやり過ごしている家庭も存在する。 きっと大切なのは、血のつながりよりも、もっと根本的な相手を尊重…

”大家さん”も”僕”も、私たちの理想だった―書評★大家さんと僕(矢部太郎)

近所にどんな人が住んでいるのかもわからない。 たくさんの人が住む街で寝起きしているのに、人のあたたかさを感じる間もない。 現代の都会で何の不自由もなく暮らしているにも関わらず、そんなむなしさを覚える人は多い。 心を癒す人間交流を求める暇もなく…

”親になる”以外にも幸せはある―書評★いるいないみらい(窪美澄)

いろいろな生き方が認められつつある現代。 結婚して子どもを産んで育てて一人前、という価値観から離れた人生を選ぶ人も増えてきている。 一方で、 自由に生きたいのに、外野から従来の価値観を押し付けられて苦しんでいる人、 自分自身は昔ながらの生き方…

片付けは人生との対峙だ―書評★姑の遺品整理は、迷惑です(垣谷美雨)

片付けとは、とにかく厄介なものである。 心惹かれて購入したものも、時と共に魅力が色褪せていく。 それでも、手に入れた瞬間のことを思えば、捨てる=二度と手にできない決断はなかなかつかない。 自分の物でも難儀するところだが、他人の物、それも身近な…

この世は異色の集まり―書評★むらさきのスカートの女(今村夏子)

いつもの街で、いつもの電車で、知り合いでもないし話をしたことさえないのに、なぜだか気になってしまう。そんな**他人**に心当たりはないだろうか。 あの人はどんな声をしているんだろう、どんな家に住んで、何をして日々暮らしているんだろう……。 人に言…

拠り所揺らぐ時、人は何思う―書評★日の名残り(カズオ・イシグロ)

人は誰しも、生きていく上で大事にしているものがある。 家族や大切な人とのふれあいだったり、日々取り組んでいる仕事や趣味を挙げる人もいる。はたまた「私はこういう人間だ」という自己評価や誇りといった精神的な実績を大切にしている人も少なくないだろ…