いつもとは毛色の違った数学回。
標識なぜ光る⇒反射を手なずけるには⇒数学でシミュレーション、という流れが序盤で起こり、実際は「数学で世界を読み解く」というのが本筋でした。
番組を見て、数学について考えたことを書きます。
5/30(水)22:00~22:45 Eテレ
日常で何気なく感じるフシギを「ヘウレーカ(わかった)!」と解き明かす
浮力について解き明かしたアルキメデスにちなんだ番組で、自然科学が中心
目次
ついに数学者現る
夜の道を運転していると、車のライトが当たってピカッと光る道路の交通標識。なぜ光るのか?と聞かれればそりゃあ反射するからでしょ、と思いました。
が、考えてみればたしかに不思議。ふつう、私たちの知っている「反射」であるならば、例えば鏡などに光を当てた場合、斜めに跳ね返ります。照らした自分の側に戻ってくるのは、真正面から当てたときぐらい。
でも、標識は車の正面からずれた道路脇に立っているし、車よりずっと高い位置にあるので、真正面から光が当たっているわけありませんよね。
この疑問を解き明かすのは、幾何学を専門とする大学教授。
アルキメデスの「ヘウレーカ!」というひらめきの一言にあやかって自然科学を扱ってきたこの番組、ついに数学者の登場です。
うまく手なずけた再帰反射
標識と鏡の何が違うのか。どちらも反射には違いないのですが、鏡はその名の通り「鏡面反射」。標識は「再帰反射」という仕組みが使われています。
2枚の鏡を横方向につないで90°など特定の角度にすると、光は2枚の鏡で何度か反射し、もともとの光と並行に返ってきます。これが再帰反射の基本原理です。
同様に、縦方向の向きも合わせるため、2枚の鏡どちらとも直角になるよう地面に3枚目の鏡を敷きます。3枚の鏡で”重箱の隅”ができました。
これで、上下左右どこから照らしても、光が差し込んできた光源の方向へと跳ね返っていく再帰反射の装置の完成です。
実際には、標識に3枚の鏡を埋め込むわけにはいかず、プリズムやビーズが埋め込まれているそう。つまり、光が都合よく戻ってくるよう多面体や球の内部で屈折させる仕組みが、標識や反射板の正体だったのです。
再帰反射と鏡面反射、全くの別現象かと思いきや、鏡面反射をうまく手なずけたのが再帰反射、という感じですね。
標識だけでなく、ランドセルにつける反射板キーホルダーはよく見ますし、自転車に取り付けることで夜間に安全走行できる反射板も出ています。歩行者や自転車側としてはドライバーに対して手軽にアピールができ、自衛につながりますね。
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夜に猫の丸い目玉だけがきらっと光ったり、写真で人の目だけが赤く光ったりするのも、関係あるんだろうか……。今度調べてみよう。
観測せず解を導く、というのが真のテーマかな
ここまでの標識の話は、実際に観測できる光を扱っていて、数学というより物理という感じでした。
強いて言うなら、おまけのように紹介されていた「再帰反射が起こる条件角度は180°を偶数で割った角度」という法則性。こういう数値をシミュレートするという部分は数学の範疇っぽいですね。
番組はここで、「実際に試していないけど分かる」という数学的な理論の話へと変わり、芸人と数学者が楽しく湯豆腐を食べる場面に移ります。
今回の表題である道路標識は、客引きというかアイキャッチというか導入部分に過ぎず、この数学的なお仕事こそが、今回のメインのようですね。
今回の数学者が専門とする幾何学のうちの超平面配置は、「ある物体を1次元低いもので区切ると、どのようなパターンになるのか」という研究だそう。
つまり、3次元の空間を2次元の平面で区切ったり、2次元の平面を1次元の直線で区切ったり、1次元の直線を0次元の点で区切ったり、といった動作ですね。
番組では、ねぎ(1次元)、昆布(2次元)、豆腐(3次元)を用意し、実際に包丁で4回切ることで最大いくつのピースに分かれるかという検証が行われました。
冷静に考えたら、何回目の入刀でも、それまでの区切り全てと重複せず交差するように切れば最大値になるはず(ミッツ・ケールちゃんは過去に色彩デザインを習っていたときにキャンバスをこの方法で区切っていた)。
でも、平面まではなんとか頭が追いつくけど、立体でやろうとすると何が何だか分からないですね……。
結果を表にしてみると、隠れた規則性が見つかります。
X次元をn回区切った場合の最大パーツ数は、 (n-1)回のときのX次元と (X-1)次元の最大パーツ数を足し合わせたもの。
こんな風に一般化するとややこしいですが、つまり、ねぎと昆布の結果を足すと1回多く切った場合の昆布の結果に、昆布と豆腐の結果を足すと1回多く切った場合の豆腐の結果になるということです。
この法則は「加除原理」と呼ばれ、3次元までにとどまらず、あらゆる次元とあらゆる区切り数で成り立つそうです。
3次元ですらすんなり頭に描けないのに、4次元以上になってしまったとき、果たして何をシミュレートしているのか。
もはや一般人には理解できない世界ですが、実行して観測せずとも答えが出るというのは、いかにも数学という匂いがします。
数学は一種の言葉
数学って確かに難しい。追求しても終わりがなくて、大学の数学なんて何のためにやっているのかと、素人の浅はかな結論に達してしまいそうになります。
難しさの理由として、今回ゲストの数学者は、一般人にとって慣れないルールで構成されているからではないかと語っていました。
それは、単語や文法のルールが分からなければ外国語を理解できないことに似ているとのこと。
中学1年から積み上げていく数学というもの。公理や定義といった数学に向き合う人が共通してわきまえる前提のもとに成り立つ、壮大な例え話のようだなあとミッツ・ケールちゃんは感じています。 そこに定理や公式をどんどん作り上げていくことで、みんなでゲームを開拓しているともいえるかも(専門でやっている人に怒られそうですが)。
多くの自然言語も、種々の語源こそあれ、自然なコミュニケーションから生まれたものであり、それぞれの単語がなぜその発音と綴りなのかには意味がないとも言えます。
と考えると、数学に通ずるものは確かに感じられます。数学も誰かが考案して作ったレベルではない精巧さを誇っています。一種の言語体系と取れるかもしれません。
目の前に何かが現れたとき、スケッチするのか、言葉や文にして書き留めるのか、顕微鏡で観察するのか、方程式を見出すのか。
日本人初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹氏は著書「詩と科学」の中で、詩人も科学者も全く異なるように見えて、自然の美しさに感動して行動するという点では共通しているというようなことを述べたそうです。
(科学界の詩人と呼ばれる湯川氏のエッセイ集。数学に詳しくなくても面白そう)
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世界を読み解くのに用いる手段は人それぞれ。科学と文学を組み合わせて何か新しいものができたら面白いのでは。世間から断絶しがちな数学を身近に感じた、地味だけど深い回でした。
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