ミッツケールちゃんの「みつける よのなか」blog

世の中のいろんなことを考察して深めたいミッツケールちゃんのブログ。本やテレビ、ニュースについて、あちこち寄り道しつつ綴ります。

考察★グレーテルのかまど「がまくんとかえるくんのクッキー」

クッキーを我慢する意志力を身につけようとするも、しっかり行動に起こすかえるくんと、すぐに気が変わっちゃうがまくん。 価値観や意見が違う者どうしでも、当たり前のように違いを受け入れて寄り添えるというのが本当の友情という感じがします。
クッキーというより”ふたりの友情”についてですが、番組を見て考えたことを書きます。

5/21(月) 22:00~22:25 Eテレ

“大人になったグレーテルたちへ” スイーツに秘められた珠玉の物語
物語や伝統において重要な役割を持つスイーツ。
その秘密や背景、再現レシピに、15代目ヘンゼルと魔法のかまどが迫ります。


目次

クッキーがおいしすぎてやめられない

 絵本「ふたりはともだち」シリーズの主人公、2匹のカエルが今回のテーマです。
 おっとりしていてのんきながまくんと、しっかり者のかえるくん。 小学校の教科書にも載るベストセラーで、知っている人も多いのでは。

 このシリーズのスイーツということで、「ふたりはいっしょ」のうちの1話で、手作りのクッキーをめぐる話『クッキー』が取り上げられました。

ふたりはいっしょ (ミセスこどもの本)

ふたりはいっしょ (ミセスこどもの本)

 がまくんが焼いたクッキーがおいしすぎてやめられなくなってしまったふたり。
 しっかり者のかえるくんが「食べるのをやめないと、じきに病気になる」と言い出し、したいと思っていることをしないで我慢する”意志力”を得ようと、クッキーを箱にしまったり高い棚の上に載せたり、食べずに済む方法を模索します。
 一方、がまくんは「はしごに登って 棚から箱を降ろして ひもを切って 箱を開ければいいさ」とかえるくんのアイデアの逆を行ってしまう。
 最終的に、鳥たちに全部あげて問題解決するも、「ものすごくたくさん意志力ができた」と満足げなかえるくんに対し、「意志力は全部、君にあげるよ」と言い残してまたお菓子を作りに家に帰るがまくん。

誰しも心に、かえるくんとがまくんを飼っている

 がまくんとかえるくんがクッキーを囲んで持て余した、良くない行動をセーブする”意志の力”。 読み手としても心当たりを感じずにはいられません。
 おやつを食べ過ぎてしまうこと以外にも、朝ふとんの中でだらだらしてしまったり、やることほったらかしでネットサーフィンしてしまったり。 人によっては、ゲームのしすぎやタバコがやめられないなど変えようと思ってもなかなか変えられない習慣もあるでしょう。

 きっぱりやめようと思う意志だけが胸中を占めていればすんなりやめられるのかもしれないけれど、やっぱりめんどくさいなと一時の快楽や惰性に身を任せてしまう本能が、決断を鈍らせます。
 多くの人が体験したことのある、そんな葛藤がこの話の中では、かえるくんとがまくんという性格の異なるふたりで表現されているようにも思えました。

 「体に悪いから食べるのやめよう」とクッキーをしまうかえるくんと、「やっぱりもう1枚だけ」と箱を開けるがまくん。 どちらが悪いというわけではなく、どちらも自然体の人格として描かれているように見えます。
 番組で作者の娘さんが「モラルを押しつけるためではなく、楽しませたくて書いていた」と話していましたが、だからこそ、多くの人に受け入れられる作品となったのでしょうね。

そこにいてくれる、かけがえのなさ

 奇抜な事件が起きるわけではないけれど、ありふれた日々の中で、ふたりが繰り広げる世界。ミッツ・ケールちゃんも幼少期に魅了された1人です。
 大きなトラブルを助け合って乗り越えるというような劇的な経験を共にしなくても、日常の中で少しずつ友情は育まれていくんだと気付かされました。

 作者のアーノルド・ローベルは、両親が離婚するなど孤独な少年時代を送ったそうです。家にいても心が休まらない時期もあったことでしょう。 日々の安らぎを、友達と過ごすことで得られた経験が、自然体で触れ合うがまくんとかえるくんに投影されているのではないでしょうか。

 がまくんとかえるくんシリーズのタイトルは「ふたりはいっしょ」「ふたりはともだち」「ふたりはきょうも」「ふたりはいつも」と、どれも「ふたり」から始まるもの。
 前提として当たり前にそこにいてくれるかけがえのなさが、作品の1ページ目を開く前からにじみ出ているように感じます。

違いを認め合う友情

 作品を通しての作者の思いについて、
みんな同じじゃなくてもいい変わった子でも、孤独な子でも、恥ずかしがり屋でも、居場所は必ずある
と伝えたかったのでは、と娘さんは話していました。

 がまくんとかえるくんは違う価値観の中で生きているけれど、お互いを認め合い親友として一緒に過ごしています。 作中ではどちらが優れている劣っているというような表現はなく、あくまで対等な友達です。
 現代に生きる人間である私たちは、ふたりから見習うところがあるのではないでしょうか。

 SNSの発達で人どうしがつながりあうようになった半面、自分と異なる意見を非難したり排除したりする動きは激化しているように思えます。
 「あの人はこんなことを言う人で、自分とは違う」などと何かと他人を分類し、似た者どうしでコミュニティを作って籠城することも多くなってきています。マウンティングなんて言葉もよく耳にする昨今、他人から下に見られないよう自身を取り繕ってしまいがち

 不寛容な社会において自然体で人と接するというのは、丸腰で銃弾の中を歩くようなものであり、なかなかに怖いことです。 それでも時には、がまくんとかえるくんのように全く違う存在とフラットに触れ合い、個性を嫌わない”意志力”を持つことが、人間としての豊かさや日々の安らぎにつながるかもしれません。



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