働き方改革が叫ばれる現代、今までのみんな同じように理路整然と働くという常識の限界がきているのかもしれませんね。
同じ社内で同じ方向を目指していても、目標に到達するためのプロセスは人それぞれ。
1つのオフィスが、多様な働き方を支える環境となるにはどうすればいいのか。オフィスデザインを紹介する番組を見て、考えたことを書きます。
5/8(火)23:00~23:30 Eテレ
身の回りの至るところにデザインは隠れている。
デザインに宿る精神や哲学をひも解きながら日本のデザインの世界を探求します。
目次
多様化する働き方を支える「働く場」のデザイン
多くの人が1日の大半を職場で過ごします。
ただ仕事ができればいいというだけでなく、快適に過ごして仕事の能率も上げるには?
働き方改革に注目が集まり、多様な働き方を考える動きが加速している現代。
働く場所という観点も大事な要素ですね。生産性を高めるオフィスデザインへの取り組みを紹介していました。
社内で選ぶ働き方
職場、会社、オフィスといえば殺風景なイメージが先立ちます。部屋ごとに、従業員の数だけ机といすを並べて完成、といった感じ。今回紹介されていたのは、そんな画一的なデザインとはかけ離れたクリエイティブなオフィスでした。
部屋ごとに分断してしまうのではなく、ガラスを多用して開放的にしたり全体をゆるやかに連続させたりして、隣のセクションとの垣根を低くしてコミュニケーションを促す狙いがあるそう。
コンセプトの発案から施工までをトータルで請負い、様々な働き方に対応できる仕掛けをめぐらしています。
働き方改革で、1つの会社の中にもいろいろな働き方を選ぶ人が混在する現代。ワーカー1人1人が用途や気分に応じて選べるようデスクを固定せず、動き回って仕事ができるようレイアウトしました。全体的にとてもオープンなレイアウトながら、1人でこもって集中できるよう遮音性のあるクッションで囲まれたブースも用意。活発なコミュニケーションの場からすっと入っていけるよう工夫されています。
働き方を改革するといえば、どうしても雇用条件や勤務体系に目が行き、究極はどんな会社に就職するかという議論になりがちですよね。社内で自分にあった働き方を選べるスタイルというのは、今までにない発想だと思いました。
ここまで斬新なデザイン性の高いオフィスは個人レベルでは難しいでしょうが、雇用条件など会社に動いてもらわないとどうしようもない部分を変えずとも、今ある職場をより快適に省ストレスになるよう個人でも工夫できるという意味で大切な観点だなと。働き方改革も大きなことばかりでなく身近にヒントがあることに気付かされました。
仕事内容も、働き方も、「脱・やらされ仕事」
番組でも言及されていましたが、経営側からすれば”オフィス”はコスト。オフィスに限らず福利厚生とか働き手のための環境は、会社として利益を上げる上では収支の”支”にあたるマイナス部分とも言えます。
企業側が従業員に気持ちよく働いてもらえるような環境をエンゲージメントし、お互い生き生きと働くというのは理想だけれど、どこまでコストをかけられるかと言えば、一部の余裕のある会社以外では現実問題かなり苦しい部分かも。労働者が集まるよう最低限は整えるけど、横並びで他社に遅れをとらなければいいという考えになりがちなのも分かります。
会社に任せきりにせず、ワーカー側が工夫するという意識も大切なんでしょうね。仕事の内容だけでなく、どう働くかという点でも、言われた通り与えられた環境で我慢するのではなく、1人1人が自分でアレンジしていくことが求められているのでしょう。
土地が狭いなりの工夫⇒発想転換した働き方へ
今回紹介されていた空間をデザインするという取り組みの中でも面白いなと思ったのが、ワークスペースと通路の間に段差を設けるアイデア。
通路からは圧迫感なく全体が見渡せる一方で、段差を2段ほど降りるだけでデスクに座ったときの集中しやすさは確保されます。高さが少し変わるだけで見えている景色が変わるというのは、普段あまり考えない盲点ですね。
とは言いましたが、この空間デザインについては、日本人ならではのアイデアだという指摘もありました。広大な土地に恵まれない日本で、限りある空間をいかに最大限活用していくか。
たしかに、1つの座敷にちゃぶ台を置いて食事したり布団を敷いて寝たり、限られたスペースを有効活用するための知恵は身の回りに多くありますね。1つのものに丁寧に向き合う姿勢は、日本人の仕事の精密さにつながっている気がします。資源が限られているからこその国民性とも言えるかもしれない、MOTTAINAIなんかともつながるように思えます。
間に仕切りを入れたり、高さを変えたり。オフィスはこういうものという先入観に縛られず、狭い空間だからどうしようもないと一面だけを見て諦めずに、柔軟にデザインされていく”働く場”。
今回は場所のデザインでしたが、「働く」という昔から当たり前に続いてきた動作も、私たちが決めつけているよりも自由にデザインできるきっかけが実は身近に転がっているかもしれませんね。働き者であると同時に繊細な働きぶりに世界から定評のある日本人。拾うチャンスは十分にありそうです。
オフィスの変革が、始まりつつある真の働き方改革の象徴のように感じられました。
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コミュニケーションVS集中
オフィス改革で大事にされる「コミュニケーション」。
会議室という区切られた場があるばかりに、会議室に入るまでは情報共有も理解も始められないという実態があります。そもそも議題が挙がるまでに時間を要するために、プロジェクト全体の効率は落ちてしまう。
こんな実態を解決するため、まるでファミレスのような対面式のベンチを至る所に配置し、時と場所を選ばず気軽にコミュニケーションがとれるよう工夫するデザインが紹介されていました。ふと思いついたときに井戸端会議みたいにできればスピードアップしそう。
「話したい事があるんだけど、まぁ詳細は会議で」と言われて肩透かし、というのはミッツ・ケールちゃんもよく経験しました。「会議」を勿体つけることで厳かなものになってしまい心理的ハードルも上がり、会議冒頭で誰からも意見が出ない、ということにもなりがちなんですよね。会議が終わったころにようやく、「そういえばこんなこともできるかも」なんて移動の道すがらで意見が出たり。会議後に議論が活発化するぐらいなら、最初からスタートを決めずに話し合えればいいですね。
一方で、オフィスのあちこちでコミュニケーションが活性化するほど失われがちなのが、個人の「集中」。コミュニケーションの取りやすさに最適化していくと、集中が抜け落ちていくということに気付いた大手眼鏡メーカーでは、”集中”に特化したオフィス作りが進められていました。日本古来の神社仏閣の構造に着想を得て、作業を始めるまでにこころを落ち着かせるプロセスをオフィス空間に落とし込んでいました。
確かに、コミュニケーションする以前の、自分の考えをまとめるという段階も疎かにできませんね。人間が集中するためには平均23分必要なのに、11分に一度はメールが来たり話しかけられたりするのだとか。自分の手元に没頭できるための空間というのもコミュニケーションと同じぐらい大事。
スタイリッシュなオフィスで満足せず、全体のバランスを見て、本当に仕事しやすいかを考えることの必要性に気付かされます。
みんなにはまるオフィスなんてない
ここまで見てきて、オフィスという身近にありふれた環境が、実はかなり特殊なものなのではないかと思えてきました。働くという大目的が同じなだけで、老若男女そろい、趣味嗜好や価値観はバラバラ、目下取り組んでいる仕事内容ですら必ずしも同じではない複数の他人どうしが肩を並べている。
さらに、作業している人休憩している人、いろんな人がいます。仕事にしても、個人で集中する作業もあれば次の構想を練る段階や、他人とのコミュニケーションでアイデアを膨らませるフェーズもあります。
ミッツ・ケールちゃんは自他ともに認める協調性の欠落した人間で、会社にかけあってフレックスを認めてもらったりリモートワークさせてもらったりしたことがあります。でもやっぱり1人で働いているわけではないので非効率的。
ふと思い立ったときに近くに同僚がいるという環境、箱としてのオフィスの必要性を実感すると共に、会社員であることの制約でもあり利点でもあると感じました。
働き方改革という言葉が最近目立つようになってきたけれど、個人の事情という多様性だけでなく、仕事の種類や段階など、今までにもオフィス内に多様性はあったはず。そういう意味ではにわかにニーズが表面化してきたというだけで、多くの従業員が共に働く時点で生まれた普遍的な問題だったのではないでしょうか。
1人1人のワーカーが多様である一方で、社としてまとまるという相反したところを目指さなければいけないのが、会社というもの。バラバラのワーカーどうしを結びつけるのが、もしかしたらオフィスという形のある場なのかもしれません。
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